インタビュー
INTERVIEW

機構長 池浦 富久

「自分で守る健康社会」を実現する
真のイノベーションを東大COI拠点から

機構長
池浦 富久(いけうら・とみひさ)
池浦 富久(いけうら・とみひさ)

九州大学大学院工学研究科合成化学専攻修士課程を修了後、1976年に三菱化成工業㈱(当時)へ。各事業所での勤務を通じて、現場経験を積む。三菱ケミカルホールディングス執行役員および三菱化学常務執行役員として技術開発戦略を束ねた。研究開発と事業化を熟知する経営者として、産業技術政策や産学連携プロジェクトにも造詣が深い。「現場に自ら足を運ぶ」が信条。

異次元の産学連携で「自分で守る健康社会」の実現に挑戦

革新的イノベーション創出プログラム(COI)の東大COI拠点が本格的に動き始めました。10年後の日本の社会を見据えながら、これから8年にわたって、かつてなかった異次元の産学連携を進め、研究開発を事業化に向けて結実させていきます。

言うまでもないことですが、日本は、世界史上経験したことのない超高齢化・少子化社会の到来を目前にしています。各年齢層の国民が健康で快適な生活 を送り、病気になった場合も必要な診断と治療を早期に過剰なコストや負担なしに受けられる社会をどのようにして実現するか。膨張する医療費をどう合理的に 抑制するか。いずれも、待ったなしの課題です。

そこで、東大COI拠点における研究開発のターゲットは、持続可能な健康長寿社会の実現です。人口構成が劇的に変化するなかで、心身の健康を見守 り、生活習慣病が発症しないうちに予防し、病気になっても速やかに健康を取り戻すことを実現するためには、技術、情報、システム、サービスを連携させることが必要で、その結果、「自分で守る健康社会」が成立すると考えています。

そのためには従来にないオープンイノベーションが必要です。企業人としてこれまでもそういうことに挑戦しその難しさも経験してきました。だからこ そ、その経験を生かして研究者のためにもなり、企業のためにもなる本当の産学連携を実現させるための触媒(カタリスト)として貢献していきたいと決意して います。イノベーションへの挑戦と同時に、成果の社会実装のための“健康長寿ループの会”を立ち上げ、ヘルスケア関連企業の連携、健康リテラシーを高める ことにも挑戦していく所存です。

まずは3本の矢から「医療革命」を起こしたい

社会を変革する本物のイノベーションは、前もって形の見えるものであるはずがありません。当事者の目にも、はじめから明確な像を結んでいるわけではないのです。東大COI拠点の開発体制は、基盤となる”健康医療ICT標準化“グループに”健康リスク見える化“グループ、”疾患予防対策“グループ、”医療技術革新“の4グループ から構成されています。

まず、医療のデータを繋ぎ、その基盤を作り生活の場のデータを繋ぐ。そういう基盤をしっかり作りながら将来リスクをエビデンスに基づいて予測し、革新的な予防・未病対応に繋げ、革新的な非侵襲のセンサー、デバイス、治療法で行動変容を推進させて新しい社会システムを構築する。こういう取り組みの中から、イノベーションの姿、『自分で守る健康社会』が遠くない時期に必ず見えてくるものと信じています。

私たちCOI拠点マネジメントの役割は、一方で企業や社会のもつニーズを引き出し、もう一方で研究現場のシーズをよく認識し、整理して、両方を確か につなげることです。そのためには、各研究者、各企業のもとに足を運び、議論に加わり、常に心をひとつにして確実に社会実装に向けて挑戦して行くことになります。プロジェクトの成功の秘訣は“必至でやり抜くマネジメントにあり” が私の信条です。

市場が求めるイノベーションを実現する

東大には膨大なシーズがあり、優れた知の力があります。医学部、工学部、薬学部、理学部、そして病院がひとつのキャンパスにあり、豊かな機能を備え ています。多くの企業が真剣に連携の機会を求めて集まってきています。それらをつなげば、ここでしかありえない医療革命ができると考えます。

これまで、大学では、研究分野が違えば、研究者同士でさえ知ることがないままであったかもしれません。しかし、いま、「自分で守る健康社会」の実 現に向けて、コミュニケーションをはかり、オープンマインドで手を組むのがCOI拠点のめざす姿でもあるわけですから、このCOIで大学も変わり企業も変 わる、その結果、そこからイノベーションが生まれると確信しています。

事業化は単に突出したひとつの技術の完成により成り立つものではありません。マーケティングを並行して行う必要があります。市場が何を求めているか が最重要です。このCOI拠点では臨床医、アカデミア、企業、規制当局、全てのステークホルダーが協奏し「自分で守る健康社会」を実現するための社会実装 を想定した研究開発を行っていきます。そのためのカタリスト(触媒)になるのが、このCOI機構の使命です。